これは、もう15年近く前の話である・・・
一大決心をしてカナダでのワーキングホリデーに身を投じ、先ずは二ヶ月の語学学校に通っていた頃の話。
その日も私は、お世話になっているホームステイ先の御宅を出て、最寄りのバス停にて駅までの足であるバスを待っていた。
今日も安定の定刻過ぎになるが、未だバスの影も形も確認できない・・・
ぎらぎらと射す日光を不快に思いながら、学校までの道のりに思いをはせる。
少しアンニュイな気持ちに浸りながら何気なく視線を左に回すと、陽光を反射しながら進む1台のバスが目に入る・・・ようやくお出ましのようだ。
既に時間は定刻より10分近い時を刻んでいるが、こちらの時間に対する感覚の違いにも慣れてきたので、いちいち目くじらをたてるようなことはしない。
弛緩していた身体に意識を戻し、二本の足に力を籠めて大地をしっかり踏みしめる。
しかしながら、改めてバスに意識を戻した時、私は戦慄に身を竦ませた。
「・・・・・何・・・・・・・・・・だと・・・・・・」
こちらへと向かってくる1台のバスの後ろには、そのバスに誘導されるかのようにもう1台のバスが見える。そしてさらにもう1台と続く。
しかも、私が白昼夢を見ているのでなければ、全て同一路線のバスに見える!
一瞬意識がブラックアウトしかけて、すぐに現実へと意識を戻した。
呆然とする私の目の前で1台のバスが停まる・・・いや、違う。3台のバスが停まった!
意識が混乱する私は、力ない眼光をしながらも現実の認識に努め始める・・・・・
バス停の標識に目をやり、3台連なったバスの路線も確認する。
3台とも、まごうことなき同一路線のバスである。
(馬鹿な・・・こんなことがあり得るのか?いや、あってはならないはずだ!)
現実を認識しきれない私の前で、目前のバスの扉が開く。
早く乗れとせかすように入口をポッカリと開けたバスからは、この世のものとも思えない気配が滲み出ており、暑さとは異なる汗で私の背を濡らす。
産まれたての小鹿のように震えながらも、ステップに足をかけ、一気に車内へと体を躍り込ませる。額からは脂汗がじっとりと吹き出し、心臓は鼓動を早め、乱れる呼吸を整えることもできない・・・
(落ち着け・・・・・そうだ、素数を数えて落ち着くんだ!某神父様も言っていたではないか、「素数」は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字。私に勇気を与えてくれると。)
プッチ神父様の教えを忠実に守った私は、素数を数えつつ、灰色の脳細胞に空気を送り、事態を考察していく。
(現実を見るんだ。実際にバスが3台来てしまっているのは事実。これからのことを考えるんだ!たまたまの事象が重なり合ったのだと思おう!(信じられないけど)やむにやまれぬ事態が発生してしまったと仮定しよう!(無理があるけど)こうなってしまった以上、バス毎で時間調整をして出発することで以降のダイヤの混乱を最小限に抑えることに努めるはずだッ!!「今」「ココ」こそが混乱の極みにあるだけなのだ!!!)
しかし現実は非情である。
私を飲み込んだバスが走り出した時、他の2台のバスも追従して一緒に走り出したのを私は見てしまった・・・・・そして、それは私が下車するまで続くのである。
私はこの日の体験を生涯忘れることができないであろう・・・・・
<解説>
え~と、表現やセリフ・モノローグなどには少し脚色を加えておりますが、
ワーキングホリデー中の在りし日の実体験によるノンフィクションになります。
いや~、自分で思い出しながら書いていても信じられませんわ~(笑)
流石にこんなことは、先にも後にもこの一度だけでしたが、
それにしたって・・・・・日本人的には考えられない!
いや、日本人でなくても考えられなくないですか!?
ひょっとしたらこの出来事のおかげで、それ以降のちょっとしたことにもあまり動じなくなったりしてるかも?ショック予防療法?
ま~ここまでショッキングなことではありませんが、(いや、微妙か?)
バスと言えば、こんなこともありました。(同じくカナダです)
バスに乗っていたら、バス停でもないのに急にバスが停まりまして、
運ちゃんが何も言わずに降りてどっかに行ってしまったんですね。
何かトラブル発生?とか心配してたんですが、
10分程度で運ちゃんが帰ってきました・・・マックの袋を持って。
んで、何のアナウンスも無いまま、何事もなかったかのようにバス出発。
しかも運転しながら飲み食いしてやんの!!
いやいやいや・・・・・・ねぇ~よ!
職務時間中よ?つか、運行中よ!?
しかもこれ、観光バスとか長距離バスの類じゃなくて、
街中走っている定期バスだからね?
・・・あれ?ちょっとアメリカだったかもとか記憶が混濁。
たぶんカナダで、ひょっとしたらアメリカです(10%くらい)。
怒りが沸くとかじゃなくて、マジ信じられないし、理解できないし、
あきれた(ちょっと上手く表現できない)と言うか何と言うか・・・・・
とにかく凄いカルチャーショック(と言っていいのか?)を受けました。
思い出しながら少しエキサイティングしてしまいましたしね。
まぁ、これもこの一回しか遭遇しませんでしたけどね?
流石に文化の違いには収まらずに、特別常識が無い運ちゃんだったと思うのですが、
みなさんはどう感じましたでしょうか?
いや~、やはり色々な経験ってあるもんですわ~。
終わってみれば、笑い話としてネタにはなるんですが・・・・・ねぇ?